アルノー・デプレシャン『あの頃エッフェル塔の下で』試写会&トークショー@アンスティチュ

アンスティチュ・フランセ東京で、アルノー・デプレシャン監督の最新作『あの頃エッフェル塔の下で』(原題:Trois souvenirs de ma jeunesse)の試写会。
デプレシャンも来日してくれました!
半年の間にアサイヤスとデプレシャンを同じ会場で見れるなんて!(涙)

「この会場を“デプレシャン・ホール”と呼びたいくらいです!」と坂本安美さん。
それだけこのアンスティチュのシネマテークの歴史を語る上でデプレシャンはなくてはならない存在。

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20年前にデプレシャン作品に出会ってから、映画の見方や寄り添い方など多くのことを学んできた、と安美さん。
人生や映画との接し方で迷った時には、デプレシャン作品の登場人物に会いに行く、という20年間だったそう。
その中の一本が『そして僕は恋をする』。
ポール(マチュー・アマルリック)とエステル(エマニュエル・ドゥヴォス)。
2人の映画を再び撮ることを知ったとき、安美さんだけではなく、全デプレシャンファンが震えたでしょう!
ええ、私も大いに震えました。
大好きな映画の、大好きなカップルの前日譚が、スクリーンで見れるなんて。
「とにかく何も情報を見ないでおこう、私のなかのポールとエステルを、映画を見た瞬間によみがえらせよう」
と、あらすじも何も見ないでいたので、直前までマチューが出演していることすら知らなかった状態だったので、マチューが出演するってことでまた震えた。

以下、トークショーの様子をネタバレなしの範囲で!



・作品を作ったきっかけについて―
「『そして僕は恋をする』のオープニングのところで、“ポールとエステルは10年以上一緒にいる。そして10年以上気が合わない”というナレーションを入れていました。
そんなに長く一緒にいるのに、なぜ気が合わないのかという謎を解明しなければ、という想いがありました。
エステルはいまだに田舎者、ポールはすっかりパリジャン。
気も合わないのにお互いを必要としているのはなぜなのかと考え、そのテーマがとても小説的だと思ったのです。

私はずっと30代の登場人物を中心に映画を撮ってきました。
だけどあるとき、若者たちの映画を作る必要性を感じました。
プロの俳優たち用の映画を作っていたのではダメだ、と思ったんです。
『Jimmy P.(ジミーとジョルジュ 心の欠片を探して)』ではベニチオ・デル・トロとマチュー・アマルリックと言う2人の大スターを、テレビ用に作った『La Forêt』ではコメディ・フランセ―ズの熟練した役者を起用しましたが、
台詞を書いたり演技指導をするのが、プロの俳優向けだけではダメだ、と。
自分が作ったものが若い人たちに通用するものでなければいけない、自分が書いたものを若い人たちが自分のものにして演じてくれなければいけない、と思ったのです。

私はインプロビゼーション(即興)ができません。
30歳も年下の役者に、自分が作った作品を演じてもらうことができるだろうか。
それは自分のユートピアであり、映画に対する欲求でもありました。」

・カンタン・ドルメール(ポール)とルー・ロワ=ルコリネ(エステル)について――
「カンタンは成熟さがある。だからポールの役を演じることができたのでしょう。
押しつぶされそうになるような役ですが…。
彼との初めての出会いは、私が二階で他の役者のオーディションをしているときに、アシスタントが階段を駆け上がってきて“いま下にいる子がすごいから絶対に会って!!”と言ってきたんです。
会った瞬間に“私の映画の一部になる子だ!”と思いました。
ポールのような“脆弱さ”と“力強さ”を持っている存在ですね。

ルー・ロワ=ルコリネに会った時のこともはっきりと覚えています。
ある日、オーディションの会場で4、50人ほどの若い人たちが集まっていました。
その中に彼女はいて、ひとりだけ仏頂面をしていました。
彼女を見ているうちに“この子はカメラに抵抗することができる”と気がついたのです。
エマニュエル・ドゥヴォスと一緒です。
“顔が存在し過ぎている”。
目も、口も、存在し過ぎている過剰な顔が、私のカメラに合っていたのです。
エステル役は強い存在感があります。
彼女は“存在の塊”です。彼女がエステルの存在感に多くのものをもたらしてくれました。

2人に共通して言えるのは、“流行りの体ではない”ということ。
現代的な顔をしているわけではない、“自分自身であるだけ”の存在です。」

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・ポールの台詞にも出て来る言葉、監督にとっての「ユートピア」とは?
「この作品自体が私にとってのユートピアでした。
私の書く台詞は演じるのはすごく難しいと思います。
それを若い俳優たち(ポールの妹約の女の子は14歳!)に対しても、マチューに対しても、同じような感じで演出をしました。」

・ポールの職業が外交官と言う設定ですが、弟さんの影響があるのですか?
(デプレシャンの弟さんは外交官)

「自分の弟に近い人生をポールはたどっていますね。
ポールは外交官でなく、人類学者になりたかったのです。
外国語が何か国語か話せるので、フランスに戻り外務省に入ったという経緯も弟と同じです。
弟の存在は確かに影響しています」

・マチュー・アマルリックについて—
「分身の話ですね(笑)
私がマチューを作ったと言われていますが、マチューが私に与えてくれたすべてのもののおかげで私は映画監督になれたと思っています。
彼は超絶技巧を持っていますから、実人生よりも大きな人物を演じることができます。
彼のおかげで自分の脚本の書き方も変わりました。
今回の作品のモノローグについてもそうです。
スタッフに”どう撮るか?”と問われると”マチューが来たら決めよう”と言っていました。
マチューなら素晴らしい発明(発案?)をしてくれるから。
かつてイタリアでマルチェロ・マストロヤンニがそうであったような俳優に彼はなっていると思います。
彼は”傷ついた男らしさを持っている”、というよりは”ほほ笑むことを知っている”男らしさを持っています。
そして、圧倒的なユーモアのあります。素晴らしい俳優です。」

その他メモ
◆一番最初に出てくるキャストは、『動くな、死ね、甦れ!』のディナーラ・ドルカーロワ。
◆この映画のテーマは、「亡命」。
◆タジキスタンと言う国を選んだ理由は、響きがいいからだそうだ。
◆手紙で綴る恋愛は、とても美しい。