『ともしび』 Hannah

映画『ともしび』を観てきました。

シャーロット・ランプリングの主演作と言えば『まぼろし』『さざなみ』ですが、それに続いて、平仮名4文字の『ともしび』。
平仮名4文字縛りですが、どれも決してIKKO風に読んではいけない作風です。

メトロの感じがパリ郊外っぽかったけど、舞台はベルギー。
原題は、シャーロットの役名「Hannah」。

余計な説明を一切省き、多くを語らず、想像力と読解力が必要な映画でした。
シャーロットがデフォルトで困り顔なのはさておき、喜怒哀楽の起伏がない彼女の表情から感情を汲み取るのは容易ではなかったです。

結構周りは寝てしまっていて、静かな劇場に寝息やいびきがところどころから聞こえてきていました。
セリフが少なくBGMもなく、冗長なので確かに眠くなるのはわからんでもないけど、伏線が張り巡らされているので一瞬でも見逃がしていたら退屈極まりない作品と自己評価してしまったかもしれない。
(でもフランスallocineでも星2つと酷評です)
賛否は分かれるとは思います。私はこういう余白がある作品は好きなのですが、ちょっと尺が長く感じたので星3つくらいかな。


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印象的だったのは、陸に打ち上げられたクジラの死体。
東京国際映画祭で観た『アマンダ』(邦題は『アマンダと僕』になったそうです)にも同じように座礁したクジラが出てきていたので、何かの隠喩なのかと調べてみたけど、これといった決め打ちとなるような答えは見つからなかった。
だけどクジラは「 le maître de l’océan」、海の主という考えがあり、海洋生物の中でも最も権力があり、クジラが存在していることで均衡と平穏が保たれているのだという。
“精神的安定”の意味もあるようです。
「海にいるべき大きなクジラが陸にいる」⇒「ありえないこと」「バランスが崩れている」ということになるのかな。
夫の不在以降、気丈に振る舞っているようで、少しずつ狂い始めた歯車に、精神的なバランスも崩れていく。静かに、ゆっくりと。
長い長い階段をおりる最後の長回しは圧巻でした。

夫は一体何をしたの?息子からも縁を切られてしまう過程には一体何があったのだろう?
私の席の近くで観ていた人とも、別の回で観た人とも、答えは一致しないかもしれない。
それぞれの観方があり、それぞれの解釈ができると思います。

ずっと困り顔…

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