フランス映画祭2015 フォトレポート『ヴィオレット』(Violette)

エマニュエル・ドゥヴォスさんは、すごい女優だと思う。

『二十歳の死』『魂を救え!』『そして僕は恋をする』『エスター・カーン』『キングス&クイーン』…アルノー・デプレシャン作品での彼女の存在感はものすごく、眼力がハンパないマチューをも圧倒してしまうほど。
『リード・マイ・リップス』で難聴の役を演じた時にはマチュー以上の眼力でもって熱演し、今でも思い出すだけで鳥肌立つほど圧倒された。
『もうひとりの息子』では、病院で自分の息子を取り違えられ苦悩する母親、という非常に難しい役をみごとに演じ、胸が熱くなった。
本当に、すごい女優さんだ。

だがしかし。
だがしかーし。

私の美的感覚がおかしいのでしょうか。
彼女が「綺麗な女性」の役、というのが腑に落ちないのです。
フランス人の知人に訪ねたところ
「いや彼女はとても美しいよ!」
との答えが。
やっぱりおかしいのか私の目が。センスが。美しさを感じるレベルが。

2005年のフランス映画祭(まだ当時は横浜で開催していた)で来日していたそうなんですが、いやはやまったく記憶にない…
その頃の記録をつけていないのもあるし、当時はたぶん5本くらいしか見ていないからそもそも会えていないのかもしれない。
だから、実際に見ると
「あ、スクリーンで見なければ綺麗じゃない!」
と思うのかしら。

と、本当に失礼すぎる感情を抱きながら参加した今年のフランス映画祭。
彼女は団長でやってきた。

わー、脚きれいー。

3492/17369″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

とてもお綺麗なのですが…
大好きな女優さんなのですが…
「細い“あき竹城”」という感情を取っ払えず…

では一カ月遅れでようやくフランス映画祭上映作品『ヴィオレット』のフォトレポート。

『セラフィーヌの庭』のマルタン・プロヴォ監督作品、
(『セラフィーヌ~』公開時は「マルタン・プロヴォスト、でしたが正しくは「マルタン・プロヴォ」ということです)
ボーヴォワールの女友達で実在の女性作家、ヴィオレット・ルデュックの半生を描いた作品です。
私、ヴィオレットの存在すら知らなかったのですが…。
(Google先生でも日本語ではなかなかヒットしません…)

闇商売していた女性が小説家に。
「私生児」(La Bâtarde)という小説でフランスで一躍有名になった人。
当時では受け入れられなかった(女性による)性描写を生々しく綴り、発禁問題起こしたり、賛否両論あった人。

輝かしい時もあったのだけれども、痛々しく堕ちて行くさまがあまりにもすごい。
もがき苦しむドゥヴォスの熱演にどんどん引きこまれる。
女優だ。素晴らしい女優さんだ!
「魔性の女」という言葉は彼女のためにあるんじゃなかろうか。
と、そこまで思ったのだがしかし、
なんとこの作品、ドゥヴォスさんを「ブス」扱いしているのです。

…そんなわけで日本公開もされるそうなので、
是非彼女の熱演をスクリーンで見てしてください!

上映後に監督とドゥヴォス団長が登壇です。
3492/17592″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

席がやや遠かったのですが、ドゥヴォスさんのお姿はきちんと拝めました!
司会は矢田部さんでなく、フィルメックスの市山さんでした。

3492/17594″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

「フランス公開は2013年。
今こうしてエマニュエルと一緒に日本のみなさまにご紹介できることをとても嬉しく思います。」
と監督。

ヴィオレット・ルデュックのフランスにおける存在と、この映画の製作に至った経緯について市山さんから監督に質問すると

「ヴィオレットの名前は知っていたけれども、彼女の作品は読んだことはありませんでした。
彼女がセラフィーヌについて書いていた文章を、ある編集者に紹介され読んだのですが、あまりに美しく感銘を受けました。
それから『セラフィーヌの庭』が公開され、その編集者に再び会いに行き、ヴィオレットの映画を作りたいから脚本を共同で執筆してもらうように依頼しました。
フランス文学界では、彼女は60年代には非常に有名だったものの、その後は忘れ去られた作家になってしまいました。
文体が素晴らしいということでアメリカの大学では研究の対象にもなっているほどなのですが、残念ながらフランスでは彼女に関心を持つ人はほとんどいません。
書店にも彼女の作品はほとんどありません。
しかし幸いなことに、この映画がきっかけでフランスでは再び注目を浴びるようになりました。
60年代には和訳もされ日本でも発売されたそうですが、また日本でも彼女の作品が再び書店に並べばいいなと思います」

3492/17595″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

エマニュエル・ドゥヴォスを選んだ理由については
「脚本を書く前から、この役を演じるのは彼女しかいない!と思っていました。」と。
そして
「最初に会った時、“顔を醜く描くけど、いいかな?”って聞いたんです。」
と監督。なな、なんと!!
それに対してドゥヴォスさんは
「女優にとっては最高のプレゼントだわ!」
と引き受けたそう。

3492/17596″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

監督への挑発的な視線も、さすがのドゥヴォスさんです。
あご…
3492/17597″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

ドゥヴォスさんもヴィオレットについては知らなかったそう。
「監督の作品が好きでしたので、オファーをいただいて、すごく嬉しかったです。
ヴィオレットのことは監督から聞いたり本を読んだりして調べました。
女優として、この役を演じられることはとても幸せだと思っています」
3492/17598″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

ヴィオレットの家庭環境についての質問について
監督は
「彼女は父親には認知されず、母親にも一歳半になるまで出生届を出してもらえませんでした。
両親に彼女自身の存在を認めてもらえなかったんです。
映画では描けなかったのですが、彼女は祖母に育てられているんです。
当時は女性がひとりで生きて行くというのは難しかったので、母親は夫を探すのに必死でした。
ヴィオレットには父違いの弟も生まれました。
こうして父にも母にも認められなかったことは、彼女が生涯抱えた葛藤です。
これは私の解釈なのですが、彼女にとってボーヴォワールは父親のような存在だったと思います。
彼女は母親よりも半年早く死んでしまうのですが、それも母親に対する抵抗だったのかもしれません。」
3492/17599″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

ドゥヴォスさんは
「(母親役の)カトリーヌ・イジェルさんとの共演は強烈な体験でした。
言い争いがエスカレートするシーンでは、彼女は非常に大きなパワーを私に与えてくれました。」

3492/17600″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

「大げんかのシーンを演じたとき、最初のテイクが素晴らしかったんです。
エマニュエルが“これでOKよね?”と言ったんですが私はその後何度もテイクを重ねてしまいました。
それでやっぱりエマニュエルが正しかったんだということがわかり、エマニュエルはヴィオレットそのものだと思いました。」
と監督。

3492/17601″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

と、いきなりサングラスをかけるドゥヴォスさん…
3492/17602″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

ドゥヴォスさんは
「自分が持っている苦しみや問題をアートを通じて乗り越えて行くことほど美しいものはない、と思います。
私はヴィオレット・ルデュックは文学界のゴッホだと感じました。
ぜひみなさんもヴィオレットの作品を読んでみてください。
日本語に訳されたときにどうなるかわかりませんが、フランス語自体がとても素晴らしいですし、みなさんも気に入られると思います。」
3492/17603″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

長回しのカットが多かったように思いますが?という質問についてドゥヴォスさんは
「偉大な監督と仕事をすれば、そんな問題にぶち当たることはありませんよ」
と、かっちょいい一言!
「長回しは役者にとっては心地いいものなんです。
そのシーンに完全に入り込めるし、勢いもありますし。」

3492/17604″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

自然描写について聞かれると監督は
「セラフィーヌという人物は、自然とシンプルに関係を持った人物でした。
森に囲まれた小さな街に住み、そういった田舎の風景は彼女にとって“逃げ場”でもありました。
そしてヴィオレットもまた、自然の細かい描写からも、自然との関係がシンプルで強力な関係を自然との間に持っていたと思います。
私自身も彼女たちのように自然の中で生活していますので、そういう生活環境も作品ににじみ出ているのではないでしょうか。」
3492/17605″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

ヴィオレットと暮らしていた作家モーリス・サックスについても質問が。
「ヴィオレットが出版社でアルバイトをしているときにモーリスと出会いました。
モーリスとは三週間の期間限定同居の予定だったのですが、いつの間にか恋に落ちて一緒に暮らすことになったわけです。
彼の作品もまた美しいものです。
ヴィオレットの人生にはこうした“道しるべ”の役目を果たす人物が何人かいますが、その一人がモーリス。
彼女に書くきっかけを与えたのも彼ですから。
それまで彼女は“自分は書く資格なんてない”と思っていましたし。」

というわけであっという間にQ&Aの時間は終了!
3492/17606″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

サイン会に登場されたときもサングラスをかけていらっしゃいましたが、
3492/17607″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

ファンと接する際には外されていました。
3492/17608″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

本当に素晴らしい演技で魅せてくれたドゥヴォスさん。
日本でもヒットしますように!
3492/17609″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>