クロード・シャブロル未公開傑作選 に行ってきた。

10日(金)までの3週間限定クロード・シャブロル未公開傑作選に2度も参戦してきましたー。
今月末からの日仏&ユーロスペースでのシャブロル特集に備えて・・・
シャブロル中毒=シャブ中 と略すのはご法度。

サスペンス系はどちらかと言えば苦手なんだけど(あのドキドキが寿命を縮めてるようにしか思えない)、シャブロル作品の独特な緊張感は、なぜか好き。


『最後の賭け』Rien ne va plus
1826/8189″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

日本でアラフォーという言葉が流行りだした頃にインタビューした某女優さんが「日本はいいわね。フランスでは40過ぎたら女は化石も同然として扱われるわよ」なんて仰っていた。
けどそうかな?フランス人のほうが女性に対して寛大だと思うけど。
と、久々にユペール様の逞しい二の腕をスクリーンで見て思い出した。

そばかすだらけで、への字口に深紅のルージュ。男たちはベティ(イザベル・ユペール)の巧みでもない(?)色仕掛けに騙され、金を巻き取られていく。
ベティは詐欺師ヴィクトール(ミシェル・セロー)とグル。二人は金を騙し奪って行くうちに危険に巻き込まれ――って、殺人も出ていて緊迫感ピークの場面でよくわからない女に指をシャブロル…いやもとい、指をしゃぶらせるなんて!なんてこった!
重苦しい緊張と、それを緩和する軽妙なユーモアと。

ラスト、スイスの美しい光景に佇む家で明かされる二人の関係。
そしてその関係を知った後で、再度観たくなるシャブロル・マジック。
エンディングは♪Changez tout♪て、あーた。


『甘い罠』Merci pour le chocolat
1826/8188″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

このジャケットの、螺旋階段の上から全てを見下ろす(見下したような)ミカ(イザベル・ユペール)の冷たい表情。機械的な彼女の性格がよく映し出されています。

以前まで「ショコラをありがとう」っていう邦題だったのが変更された。実にいい変更だと思います。
単に「ショコラ=甘い」だけの意味ではなかろうと日本語で「甘い」を初めてYahoo辞書で検索したもの。
・男女の仲がよく、幸せそうなさま。
・やさしすぎるさま。厳しさに欠けているさま。
・楽しく、快いさま。
・物事の機能が本来あるべき状態より衰えているさま。
なるほど、どれにも当てはまるのが巧妙だなー、と。
ピアノの響きもが耳にも甘く伝わって来る…んが!アンドレ(ジャック・デュトロン)とジャンヌ(アナ・ムグラリス)がコンサートに向け練習している曲名は『葬送』。
演奏が上手くなるにつれ、その「葬送」のムードは高まって来る。
そして、ひっそりと編んでいたソファーカバー(なにあれ、クモの巣?)に自らが吸い込まれて行くようにラストのミカが静かに泣き崩れ堕ちて行く姿へと続く。

そもそも、しょっぱなから謎だらけの作品なんですよね。
ミカと離婚したアンドレ、再婚した妻リズベートは不可解な事故死、それでミカと再々婚。
「不可解な事故死」にも関わらず、アンドリューはなんでミカとよりを戻すの?それどころかなぜ結婚式に参列している人はそろいも揃って笑顔で二人を祝福してるの?
世間話程度のレストランの会話で出生の秘密を知っちゃう?
そんで信じて父親(かもしれない)に突撃で会いにいっちゃう?
ショコラこぼしたくらいで成分分析しちゃう?

なんてね。謎は謎なままで、微妙なしこりが残るこの加減がちょうどいいの。余韻大切。
台詞ひとつひとつを紐解けば答えに辿り着くのだろうけど、心理描写を必死で読みながらも、ジャンヌの出生の秘密もリズベートの死も明らかにされないままのラスト。
そして余韻と記憶から、観賞後に繋げて行くの。ああ楽しい。

アナ・ムグラリスは10年前はまだそこまで声にドスがきいてないし、妖艶さよりはあどけなさがあるけれど、高級猫(アメショーとか…)のような足音がしない優雅な歩き方、吸い込まれるような強烈な眼力…引き込まれます。


『悪の華』La fleur du mal
1826/8190″ target=”_blank” rel=”noopener noreferrer”>

はい!あご割れ紳士・マジメル君の登場です。
シャブロルの息子・トマもマチュー役で出演。
三代続く近親相姦、選挙前に候補者の母・アンヌ(ナタリー・バイイ)に送りつけられて来る怪文書、叔母の暗い過去―金はあっても幸薄いブルジョワ一家。
犯人探しをするのが人間のサガだけど、見事にそそのかされるのよね。
階段から死体がすべり落ちそうになって笑い転げるとか。ほら緩和。
祝賀会と死体が同居する、うやむやなラスト。

押し付けられることが嫌いだから。
帰り道で様々な妄想を繰り広げることができる、種明かしなしのシャブロル・マジック、犯人が誰なのか謎なまま終わる火サス。
シャブロル体験は本当に楽しい。

今月末から来月にかけ、30回以上もこの体験ができるなんて!
ありがとう紀伊國屋!ありがとうユーロスペース!ありがとう日仏学院!