君を想って海をゆく Welcome

『君を想って海をゆく』
去年の暮れに観た映画。4日(金)までヒューマントラストシネマ有楽町にて公開中。

フランスの港町カレーにたどり着いたイラク国籍のクルド難民、ビラル(フィラ・エヴェルディ)はイギリスへ密航しようとするも失敗。恋人のいるロンドンへどうしても行きたいビラルは泳いで行こうと思いついたが、偶然出会った水泳コーチのシモン(ヴァンサン・ランドン)は「無理だ」と一刀両断。それでもビラルは練習を続け――


最愛の妻を引き止めることもできず離婚するシモン。
全く泳げないのにも関わらず、ドーバー海峡を泳いでロンドンにいる恋人に会いに行こうとするビラル。
ビラルの無謀なまでの必死さに心を動かされ、違法とはわかっていながらも援護の手を差し伸べるシモン。
かつてシモンがそうだったかのように、隣人は移民問題に巻き込まれたくない。
シモンがビラルを家に泊める。隣人は警察に通報する。その隣人の玄関マットには“Welcome”の文字…

物語の舞台となっているのはフランス北部のカレー。薄暗い陰気な街の様子が、一層リアリティさを引き立てる。
移民問題が根底にあり悲惨な現状を描いている一方で、良識の在り方、人と人との信頼・絆の重要性を訴えている。
胸が熱くなり、ビラルを待ち構えていた運命に号泣した。

ビラルと、恋人ミナは実の姉弟だったのですね。
儚く繊細で、寂しげな瞳がまた涙を誘う名演技でした。


フランスの移民問題は現在進行形。記憶に新しいところだと、昨年の「ロマ狩り」。
移民省前で不法滞在外国人労働者への支援を訴える集会にはジェーン・バーキン、レジーヌら有名人も参加。
レジーヌは大統領選の際にサルコジを支持していたけれど、さすがにこのナチス「ユダヤ狩り」を連想させることには賛同できなかったようです。


"Les petits papiers" aux fenêtres d'Eric Besson
アップロード者 lesinrocks. – 入りたてのホットなニュース動画

去年、日仏の授業で題材にされていた作品『Les invités de mon père』も移民問題を描いていた。
そして去年TIFFで上映された『ハンズ・アップ!』もそう。
『サラの鍵』は人間を人間扱いしない「ユダヤ狩り」を描いた作品。観ているのが本当に辛かった。
当時の決して目を背けてはいけない惨劇が、現代に生きる人の脳裏を過ぎり、心を痛める。
今も尚続いているこの問題は、エジプトのニュースよりもエリカ様だのいう女優の離婚が大きく取り上げられるようなガラパゴスに生きていると想像し難いだけど、それでもこの国で島の領域を争うように、欧州では差別が日常的に存在する。
非力な異国民だけれど、映画というメディアを通してでも、こういった現実を目の当たりにするのは重要なことなのだな、と心を痛めながら想うのでした。