髪結いの亭主 Le mari de la coiffeuse

思い出がたくさん詰まった映画館・恵比寿ガーデンシネマが先月28日で休館した。
最後に観た映画は『ガタカ』。
大好きな映画館だけに、本当はフランス映画『クリスマス・ストーリー』で締め括りたかったんだけども、時間が合わなかったの。
決して得意分野でないSFものではあるけど、『ガタカ』にはブログには書くほどでもない淡い思い出が。

『ガタカ』の音楽はマイケル・ナイマン。
そして今ユーロスペースでリバイバル上映されている『髪結いの亭主』の音楽も、マイケル・ナイマン。

背景に流れるのはアラブ系音楽。
ノルマンディーの浜辺で、“自己流”のコミカルなダンスを踊るアントワーヌ少年。
―恋焦がれる思いで、あなたを呼ぶ―
彼には、人を愛すること以外は何もなかった。


ある日、美しき髪結いマチルド(アンナ・ガリエナ)のいる理髪店にふと立ち寄ったアントワーヌ(ジャン・ロシュフォール)は、マチルドに唐突にプロポーズする。そして、マチルドとアントワーヌは結婚する。少年時代からの夢をかなえたアントワーヌは、マチルドのそばで濃密な日々を送るようになる。


パトリス・ルコントの作品中、マイベスト。
「チラリズムこそがもっとも官能的」
だと確信したのはこの映画を初めて見たときだった。
当時まだ10代で、もうあまりにも衝撃的で動けなかった。
シェフェール婦人の胸を見た日のアントワーヌのように。

フランスの田舎町、穏やかな海、美容院の窓に燦燦と差す太陽の光、悪ガキども、そして“アントワーヌ”って名前。
これだけでも好きな要素が十分なくらいなのに、僅か80分強というフィルムの中に胸を締め付けるほど切ない大人の純愛と、極限の愛情表現を詰め込んでいる。
マチルドはその美しい体をスクリーン上で露にしない。
行為のシーンも、リアルではない。
なのに最上級にエロティシズム。
少年アントワーヌのうぶな目線で、まるで初めて大人の女性を見るようにスクリーンに惹きつけられるからなのか??
名前も知らないまま求婚を受諾するマチルド。それから少年アントワーヌの笑顔に切り替わるシーンがそうさせたのかもしれない。
それからまたオープニングでも見た虚無感に包まれた中年アントワーヌに切り替わる。
裏では“店員と客”ではない、二人の初めての会話が繰り広げられている。
少年アントワーヌが25年間抱いてきた夢は、叶ったのだろうか。

「陰気だ」と言われたもじゃもじゃの髭を綺麗に剃り、別人になった客が一言「tant pis」(何も変わらない)。
子宝に恵まれるも美しい妻に別れを告げられる客。
ハンサムだけれども日に日に背中が曲がってくる客。
変わらないのは、マチルドの美貌。
彼女のお腹を膨らませたくないので、子供はいらない。二人でいられればそれでいい。
妻が客の髪を切る。アントワーヌは毎日その姿を見ているだけだ。
何も変わらない日々が、幸せだった。
常識的に考えれば「勤労の厳しさを知れ、中年よ!」と叫びたくなるところだけれど。
“薔薇のごとく燃ゆる苦悶よ”…と語る客の横で繰り広げられる行為がどうにも素敵で(そう思うの少数派かしら…)、一生このヒモの愛情表現を眺めていたくなる。

「愛しているフリだけはしないで」
マチルドがくだした決断は、一応女である自分としては理解できなくもないけれども、あまりにも残酷だった。

初めてお客にシャンプーをするアントワーヌ。
お客の頭は泡だらけ。
唯一自分の特技としている自己流ダンスも、お手本を見せられてしまう。
なかなか解けないクロスワード。
“髪結いの亭主”は妻を待ち続ける。

「夢はいつか叶う」―彼の描いた夢は、こんな結末だったのだろうか。。。
なんともいえない余韻に包まれる。

教訓:遠い将来、男の子が生まれたら、手編みで毛糸の海パンを履かせないこと

髪結いの亭主 デジタル・リマスター版 [DVD]

ガーデンシネマに続き、来月にはシネセゾン渋谷も…
心にぽっかり穴があくような感覚ってこのことね。
シネセゾン渋谷、来月は私をおうちに帰さない作戦らしいです。
クロージング上映スケジュール

そして先週末から始まりました、『ポンヌフの恋人』リバイバル上映
既に二回観た。もう大好き。

3月4日にはこんな素敵な誘惑が…
アレーーーーックス!!

ボーイ・ミーツ・ガール&汚れた血&ポンヌフの恋人 DVD-BOX~レオス・カラックス監督 “アレックス三部作” ~ [DVD]