フランス映画祭2015 フォトレポート『アクトレス ~女たちの舞台~』(Sils Maria)

ちょっと時間が経ってしまったけど、私の頭の中の消しゴムが作動しないうちにフランス映画祭2015のフォトレポート。

3日目1本目、オリヴィエ・アサイヤス監督の『アクトレス ~女たちの舞台~』(Sils Maria)。

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大女優マリア・エンダース(ジュリエット・ビノシュ)と、そのマネージャー、ヴァレンティーヌ(クリステン・スチュワート)。
マリアがブレイクしたきっかけになった戯曲『マローヤの蛇』の20年ぶりのリメイクが決まったが、マリアにきたオファーは主役でなく、惨めな中年女性の役。
主役は、今をときめく若手女優(クロエ・グレース・モレッツ)。
『マローヤの蛇』劇作家の表彰式に向かうため2人はスイスに向かう。
その電車の中で、ある人物の訃報を知らされる――

キャリアを積み重ねた大女優の意地と、現代に適応した若い力のぶつかり合い。
これって芸能界という世界に限らず、一般的に会社にも存在する現象なんじゃないかな。
新しいものを拒む大御所と、新風を吹き込もうとする若者。
(って言うと某家具屋さんのお家騒動がふと思い浮かんじゃいますが…)
一方は「若さ」を忘れ、一方は「経験」を知らない。
お互いにないものを羨むこともなく、それを欲しいとも思わない。
相反する女優達のプライドと葛藤、舞台では見せない裏側の顔、その背景に美しく壮大な風景とクラシック音楽…過ぎゆく時間は儚く、酷でもあるけれど、とても美しい。
ああ、とても素晴らしい作品でした。

邦題は不評です…原題ママでいってほしかったな。
「マローヤの蛇」は、スイスのマローヤ地方の山間に流れる雲が蛇の形に見えるから。
実際にその映像も作中に流れます。圧巻!
どれだけすごい人間であっても、その存在は自然の中ではいかにちっぽけなものか、ということを知らされるよう。
なので、英題『Clouds of Sils Maria』もすごくいいんだけど
邦題はその壮大な世界観をも台無しにしちゃっていると思うなー。
(メインポスターも女優ドン!ドン!ドーン!のあれで決定かしら)

と、ぶーぶー言ってますが10月日本公開。
公開されたらまた観に行こう!
本編はほとんどが英語でした。

さて、Q&Aのフォトレポートいってみよー。

上映後にアサイヤスが登壇。
「朝早くからこんなにたくさんお集まりいただきありがとうございます」
と、のっけから腰が低い!
司会は安定の矢田部さん(&通訳も安定の福崎さん)。
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『カルロス』『5月の後』、そして『シルス・マリア』。
まったく異なるジャンルの作品を作ってきた監督ですが、この作品の製作について聞かれると
「『カルロス』『5月の後』と70年代が背景の作品を作ってきて、自分が言いたいことを言い終えた感じがあり、自分の中で“なにか新しいものを作りたい”という思いがありました。
ジュリエット・ビノシュとは昔から一緒に何かしたいと話してはいました。『2人の関係を反映するような映画を作ってはどうか』と彼女から提案がありました。
僕と彼女の想いから、作られたものです。
だけど彼女は脚本には一切関わってはいません。彼女の声を聞くことは非常に重要なことで、脚本を書いているときも定期的に会っていました。
いかに『過ぎていった長い時間』が私たちを変えていくのか、と“時間”について語る映画を作りたかったが、何をテーマにしているかということは彼女には一切話していませんでした。
脚本が出来上がったときに彼女は初めてこの作品を知ったのです。」

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ここでちょっとした事故が…
Q&Aではよくあることなのですが、何を話しているかよくわからない人(しかもとーっても聴き取りづらい英語)に当たったとき。
会場がビクビクしていましたが、矢田部さんは華麗にスルー。
さすがです。
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撮影監督について聞かれると
「3人の撮影監督を交代しながら作品を作っています。
どの撮影監督にするか、というのは直感的に選んでいるように思います。
この作品はドキュメンタリー風要素も入れたかったので、Yorick Le Sauxを選びました」

観客から「画面が暗いように思いましたが」と聞かれると
「上映条件のチェックをしていないのでわかりませんが、特に暗い映画にはしていません。
むしろ明るめに作りました。
予算上、太陽が理想の光を照らしてくれるまで何日も待つことはできませんが、なるべく明るい光がとり入れられるように撮影してきました。
最近の私の作品では“薄暗がり”よりもむしろ“明るさ”を求めています。
特に“自然”を撮るときにはそうしてきました。」

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つづいてクリステン・スチュワートを起用した理由は
「『トワイライト』シリーズで有名になりましたが、彼女は実に独特な存在感のある希有な女優だと思っています。
どんな小さい役でもキラリと光る存在感があります。
彼女を初めて見たのはショーン・ペン監督の『イントゥ・ザ・ワイルド』でした。
端役でしたが、映画館を出た後も彼女のことが忘れられませんでした。
カメラ映りも本当に素晴らしい。とても強みがあり、深さがある。
アメリカ映画の中では特異な存在だと思います。
今回作品に出てくれて本当に光栄に思っています。
ヨーロッパの、しかもインディペンデント映画に出演するなんて、彼女自身にとっては大きなリスクでしょう。
普段彼女が慣れている製作環境も、報酬も、居心地の良さもまったくありません。
その代わりに、これまで彼女が出演してきた映画になかったものをもたらしてあげようと思いました。
映画の登場人物ではなく、彼女自身になること。人工的に登場人物を作り出すのではなく、彼女自身を発揮できる空間・自由をを与え、自発的で自然な部分を重視するようにしました。
そうすることで、自分自身を発見し、理解することができるからです。
それが彼女の今後の助けになるのではないかと思いました。」

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ビノシュさんとスチュワートちゃんの相性については…
「2人がうまくやっていける、というのはこの作品を作る上でとても重要なポイントでした。
撮影開始時に2人が初めて出会ったので、準備している段階では“なんか大きな危険を冒しているのでは…”という意識もありましたね(笑)
2人が上手くやっていけなかったら、2人の間に緊張が生まれたら、この映画は作れなかったでしょう。
結局このような作品を作れたこと、脚本を書き終えたときとまったく異なった作品になったことは2人の関係性のお陰です。
お互いを評価し、敬意を持っていました。
クリステンにとってジュリエットは“キャリアを通じて自由と精神の独立を保ち続けてきた女優”というように見えていたようです。
ジュリエットがどのように生きてきたのか知りたい、どのような道程をたどってきたのか学びたいと思っていたそうです。
ジュリエットの方も、クリステンは若い女優ではあるけれど、映画に対する情熱と、芸術的な要求の高さを持っていることに対して評価していました。
2人は刺激し合う存在で、とてもバランスが良かったです。
いい意味で競争心もあったと思います。
2人の関係がこの作品を支えてくれました。
私は2人を傍で観察し、関係が進展していくのをドキュメンタリーのように撮影していただけです。」

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音楽については―
「私の他の作品とはまったく違った音楽の使いかたをしています。
理由は断言できないけれど、この作品にはバロック音楽が必要だと考えていました。
(質問に上がった)プライマル・スクリームの流れるシーンは、この作品の中でも他とトーンが違ったシーンになっています。
それはいわばこの映画の中に窓が開いて、ヴァレンティーヌの別の人生が垣間見れるシーンでもあります。
すなわち、カメラに写っていない、フレームの外の部分が突然見えた、というシーンです。
別の人生があって、映画では語られていない部分があることを描いています。
この映画の中で、一瞬、目まいがするようなシーンでもあります。
この曲は大好きで、もう3回も自分の作品で使っています。」

と、Q&Aのお時間はこちらでおしまい。
最後の最後、観客が拍手するのを壇上から優しく眺めていた監督。
深くお辞儀する姿も、とても印象的でした。
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今からでも遅くない。
是非、邦題の変更を!
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