クリスマス・ストーリー Un Conte de Noël

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去年鑑賞した中で、マイベストの一本、アルノー・デプレシャン監督『クリスマス・ストーリー』(Un Conte de Noël)。

年明け1月2日の恵比寿ガーデンシネマで再鑑賞です。
(新年早々失敗したくないので既見作品を選択する自分…)
1,000円で鑑賞できるとあってか、クリスマスを過ぎていても大賑わいでした。
でも日本ではクリスマスというよりも、盆や正月のように家族が集まるような期間の鑑賞がいいのかもしれない。

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クリスマス。
ヴュイヤール家では、母ジュノン(カトリーヌ・ドヌーヴ)の病気をきっかけに、長女エリザベート(アンヌ・コンシニ)、三男イヴァン(メルヴィル・プポー)ら、子どもたちが集まっていた。
しかし、絶縁されていた次男アンリ(マチュー・アマルリック)の登場で、穏やかなクリスマスに波風が立ち始める。


「葉が自ら木から落ちていくように、わが息子は私から離れていった…失ったことが新たな出発点であり、今や私が彼の“息子”となるのだ」
一家の主であるアベル(ジャン=ポール・ルシヨン)が『エマソンの日記』の引用をしながら、白血病のため亡くなった長男ジョゼフの墓前で彼に贈る最後の言葉。
タイトル『Un Conte de Noëll』が映し出されると同時に「ROUBAIX!」(ルーべ!)と下に書いてある。
本作の舞台は、デプレシャンの出身地であり、“フランス人が絶対に住みたくない街”ルーべ。

「クリスマスには魔法がかかります。
退屈なつまらない街も、ただ雪で包むだけで、まるでおとぎ話の幻想的な街に変わるのです。」
(デプレシャンの言葉より)

『クリスマス・ストーリー』というタイトルだけれど、そこにはファンタジー的要素は皆無で、小さな街の一つの家族に起こる出来事を延々と綴っていて、至って現実的。
だけど、ジュノンの死を手を拱いて待つのでなくどうにか助けようとし、精神的な病から立ち直ろうとする者、過去の恋心を忘却できずにいる者…
家族の一人一人にそれぞれ物語があって、各々がヒーロー・ヒロインになっている。
ドヌーヴ様演じる「ジュノン」の名をギリシャ神話の女神“ジュノー”からとってるという辺りからもそうなんだけど、デプレシャンの魔法にかけられて、現実的な出来事が魅力的な物語へと変化していっているのね。
去年3月・日仏でのトークショーでも黒沢清監督が「デプレシャン作品は鑑賞後に3日間くらいの経験をしたような、へたしたら人生の半分くらいを経験したような、物凄い分量と力をもらいます」と仰っていたように、これだけのボリュームを150分に詰め込んだというのもすごい。
個人的に映画で150分といったら「長い」領域に入るんだけれど、デプレシャン作品は確かに中身が詰まっていて全然長いとは感じない。体感時間は90分くらいに感じるんだけど、観終わった後の衝撃は何日も引きずる不思議なパワーがある。

現実的だとは言いながらも、潔癖症で完璧の長女・エリザベート(アンヌ・コンシニ)が問題児の次男・アンリ(マチュー)を追放するまでに至った決定的な理由とか、アンリが登場するなり道路に倒れ付すシーン(何度見ても痛い!)後の怪我の具合だったり(倒れて起こされた直後は傷一つなかったのに…)、謎は謎のままの余韻があったりする。
ただ、パンフを拝見し、モヤモヤしていた謎がひとつ解けた!
エリザベートの息子、ポール・デダリュスという名前…そう言えば…と思っていてパンフを拝見して確信。
『そして僕は恋をする』のマチューの役名だ!
ポールとアンリの人間性のからくり。ひとつ謎が解けてDVDで再見してみると、アンリへのポールの眼差しだとか、二人で撒き木を集めにいったときとか二人のジョギングだとか…改めて意味を持つシーンに見えた。深い。
スパットがエリザベートに贈った(盗品?)ハートのペンダント、ユダヤ教のフォニアが別れ際ポールの手に書いたハートとか、私が思う以上に大きな意味合いを持つシーンなんだろうな。
盗品と言えば、エリザベートがアンリに向けて一人つぶやく台詞「お前は何でも盗んだ。私の人生を盗んだ」
シルヴィアがシモンに向けて「あなたを愛したかもしれない、私の人生を盗んだのよ!」
という同じ「人生を盗んだ」という台詞の対比も興味深かった。
プレゼント交換のシーンでジュノンが『エマソンの日記』の分厚い本を持っていたところとかも…全く異なるシーンが繋がっていくのは楽しい。

出番は少なくとも存在感を放っていたデプレシャンのミューズ、エマニュエル・ドゥヴォス。
(彼女が「綺麗な女性」扱いされるのがどうも納得いかないんだけど…「アンジェラ・バセットのようなお尻」には笑ったけど)
アンリの元妻・マドレーヌがルーべの家に来る前に事故死したことを聞いた後の、勝ち誇った顔!
「あー、よく食べたわ。コーヒー入れてちょうだい」
女の恐ろしさに鳥肌立ちます…

一番好きなのはマチューとドヌーヴ様が夜の庭、ブランコの上で語り合うシーン。
どんなにいがみ合っていても母と息子という関係は永遠に続くことを感じ、滑稽だけど何度見てもなぜか泣ける。
最後のビニールを介して病室でコイン遊びするシーンも微笑ましい。
ドヌーヴ様は重病を患った庶民の母を演じるにはだいぶゴージャスでエレガンス過ぎた感はあるけど、重厚な存在感といい、適役だったな。
「あなたは孤独、私は人気者」
「シルヴィア(キアラ・マストロヤンニ)が嫌い、愛する息子をとったから。でもあなた(フォニア)は好きよ、アンリは嫌いな息子だからね」
なんて実の娘キアラを馬鹿にする皮肉めいた台詞も、彼女だから愛らしく思えた。

ガーデンシネマでの最後の鑑賞作品をどうしようか迷っています。
「恵比寿ガーデンシネマ・ベストセレクション」も正直なところ平日は難しいから
結局『クリスマス・ストーリー』再々見で終わるのかな…

今週末はマチュー来日だー

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